Amazon Simple Storage ServiceとNetapp SteelStoreを採用し
クラウドバックアップの実用化を推進
リコーがAmazon Simple Storage Service(以下、Amazon S3)とNetapp SteelStoreを採用し、クラウドバックアップの実用化を推進している。“バックアップ仮想アプライアンス”を利用することで、初期投資を抑えつつバックアップ対象データの“重複排除と暗号化”を可能に。新たに専用線やVPNを導入することなく、クラウドストレージへの効率的かつセキュアなバックアップを実現している。
業界
- 製造
目的
- パブリッククラウドのストレージサービスを採用し、テープメディアを使わない投資対効果に優れたデータバックアップ/アーカイブ方法を確立すること。
アプローチ
- リコーのデータセンター内で対象データの重複排除と暗号化を実施。既存のインターネット回線を利用して、限られた時間内でセキュアにクラウドストレージへのバックアップを実行可能にする。
ITの効果
- Amazon Web Servicesで提供される「Amazon S3」を採用し投資対効果に優れたデータバックアップ先を確保
- バックアップ仮想アプライアンス「Netapp SteelStore」により重複排除を実行し更新データ量を約1/10に削減、暗号化によりセキュリティも確保
- 高速な専用線やVPNを導入することなく既存のインターネット回線を利用
- 運用手順やバックアップソフトを変更なしにクラウドバックアップへ移行
ビジネスの効果
- テープデバイス/メディアを使わないクラウドバックアップという選択肢を獲得
- スモールスタートと段階的な拡張が可能なクラウドバックアップのメリットを享受
- 適用範囲の拡大を視野にクラウドバックアップの運用ノウハウを蓄積
- 将来的に大容量のデータをクラウド上にアーカイブすることを検討
チャレンジ
テープ、ディスクに続く“クラウドバックアップ”という選択
RICOHは、デジタル複合機やプリンターなどのオフィス向け画像&イメージング機器、産業向け機器、デジタルカメラ等におけるグローバルブランドだ。オフィスの生産性向上とワークフロー変革に貢献するリコーのソリューションは、国内外で大きな支持を獲得している。2012年には革新的な製品とサービスによる市場創造力が評価され「Top 100 グローバル・イノベーター*1」に選出されるとともに、「世界で最も持続可能な100社(Global 100)*2」に日本企業として唯一10年連続で選ばれた。
“クラウドバックアップという選択肢が加わったことは、将来のテープレス化に向けた大きな一歩ではないかと考えています。
‐ 株式会社リコー コーポレート統括本部 ビジネスプロセス革新センター
情報インフラ統括部 システムインフラグループ シニアスペシャリスト 宮腰 寿之 氏 |
イノベーティブな企業活動を支えるIT環境は、日・米・欧州・アジアパシフィック4極によるガバナンス体制を敷いている。コーポレート統括本部 ビジネスプロセス革新センター 情報インフラ統括部 システムインフラグループ シニアスペシャリストの宮腰寿之氏は、国内の体制について次のように紹介する。
「コーポレート統括本部ビジネスプロセス革新センターがリコーグループのIT戦略の策定、計画の遂行、システムの運用管理までを担うとともに、グループ約11万ユーザーが利用する共通基盤/主要システムを開発・運用しています。自分たちでやる、というのが私たちのポリシー。リコーにはいわゆる情報システム子会社はありません」
国内のサーバーシステム、WAN/LAN/音声ネットワーク、データセンターまで、ITインフラを統括するのが情報インフラ統括部 システムインフラグループである。
「UNIX系で構築されている基幹業務システムだけで数百OSを稼働させています。数ではそれを上回るWindows/Linuxベースのシステムも運用していますが、こちらは仮想化された統合基盤への移行を順次進めていきます」(宮腰氏)
リコーは、長年にわたりITパートナーと協力しながらオンプレミスでシステムを開発・運用してきた。“仮想化された統合基盤”も自社データセンターに構築されているが、データバックアップの運用で課題に直面していたという。コーポレート統括本部 ビジネスプロセス革新センター 情報インフラ統括部 システムインフラグループ スペシャリストの西脇祐介氏は、次のように説明する。
「基幹系システムはDisk to Diskで遠隔地にバックアップデータを送信、それに準じるシステムはストレージでスナップショットを取得しテープメディアに保管、というように重要度に応じていくつかのバックアップ方法を使い分けてきました。しかし、ビジネス継続性確保の観点から従来のバックアップ運用ポリシーを見直すことになったのです」
ポリシーの変更により、テープメディアを遠隔地保管しなければならないシステムが増加している。オンプレミスで対応するには、バックアップ装置を増強しなければならない。移送と外部保管のためのコストも上乗せになる。
「そこで私たちが注目したのはパブリッククラウド上でのバックアップでした」(宮腰氏)
*1:米Thomson Reutersによる*2:加Corporate Knights Inc.による
株式会社リコー
コーポレート統括本部
ビジネスプロセス革新センター
情報インフラ統括部
システムインフラグループ
シニアスペシャリスト
宮腰 寿之 氏
株式会社リコー
コーポレート統括本部
ビジネスプロセス革新センター
情報インフラ統括部
システムインフラグループ
スペシャリスト
西脇 祐介 氏
ソリューション
“仮想アプライアンス”による重複排除と暗号化
宮腰氏、西脇氏は、複数のクラウドベンダーに打診して各社のストレージサービスを検討。そして「Amazon S3」を選定した。Amazon Web Services(AWS)で提供されるストレージサービスである。様々な形式のデータファイルをオブジェクト単位で手軽に保存できるため、データバックアップ用途にも最適なサービスだ。
「クラウドバックアップは、テープメディア遠隔地保管の代替え案として非常に現実性が高いと考えています。ディスクバックアップ装置がクラウド上にある、というイメージで扱える利便性にも期待しました」(西脇氏)
宮腰氏と西脇氏は、オンプレミスでのバックアップ機器の導入とその運用、メディアの搬送と保管にかかるコストを試算し、クラウドバックアップの投資対効果の検証を慎重に行った。そして、まずバックアップ対象のシステムを2つに絞って「Amazon S3」の導入を決めた。
「Amazon S3の実効性を本番環境で検証することにしたのです。そのためには初期投資を小さくできることが必須でした」(宮腰氏)
バックアップソリューションの導入を支援した日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、HPE) テクノロジーコンサルティング事業統括 シニアコンサルタントの吉田元哉氏は、次のように語る。
「導入コストを抑えながら、クラウドバックアップの導入を成功させるポイントは2つあると考えました。高速な専用線やVPNを新たに導入することなく、既存のインターネット回線を使って規定時間内にバックアップデータを転送できること。もうひとつは、インターネット回線上でバックアップデータのセキュリティを確保することです」
HPEの提案は、バックアップ仮想アプライアンス「Netapp SteelStore」を採用し、リコーのデータセンター内で重複排除と暗号化を実行したうえでAmazon S3にバックアップするというものだった。
「Netapp SteelStoreの重複排除機能により、更新データ量を約1/10に削減できると見込みました。重複排除後のデータを暗号化しますので、たとえ第三者に復号化されてもオリジナルのデータを再現できないためセキュリティを担保できます」(日本HPE 吉田氏)
「ハードウェアアプライアンスによる重複排除/暗号化の提案は他にもありましたが、“仮想アプライアンス”によって導入コストが抑えられたことがHPEの提案を採用する決め手になりました」(宮腰氏)
2013年11月に構築プロジェクトがスタート。クラウドバックアップシステムは、翌年2月に早くも運用を開始した。
日本ヒューレット・パッカード
テクノロジーコンサルティング
事業統括
インフラストラクチャ
ソリューション部
シニアコンサルタント
吉田 元哉 氏
日本ヒューレット・パッカード
テクノロジーコンサルティング
事業統括
テクノロジーアーキテクト部
シニアコンサルタント
大矢 俊夫 氏
ベネフィット
比較的小規模なシステムにクラウドバックアップを適用
Netapp SteelStoreは、仮想マシン上にバックアップアプライアンスを構築できるためスモールスタートに最適だ。強力なインライン重複排除テクノロジーを実装し、ファイルを細かなブロックに分割して2回目以降のバックアップでは重複のないブロックだけを書き込む。これによりストレージ容量を大幅に削減でき、限られた帯域でも短時間にクラウド上にバックアップを行える。
「最初にクラウドバックアップの対象としたシステムは2系統。12台の仮想サーバーで構成される総データ量5TBの業務システムと、これより小規模な2サーバーのシステムです。それぞれOSを含むシステム領域とデータ領域全体を対象に、週次でバックアップを行っています」(西脇氏)
本番環境でクラウドへのバックアップを実行しながら、西脇氏は「いくつかの知見を得ることができた」と話す。
“ユーザーからの要求に対して、バックアップまでを含むサーバー環境をタイムリーに提供できる条件が整いました。オンプレミスで数カ月を要する環境を、仮想化共通基盤とクラウドバックアップなら数日のうちに用意できます”−西脇氏 |
「仮想マシン単位に範囲を区切って逐次バックアップを実行することで、重複排除から暗号化、クラウドへの転送までを最も短時間で行えることがわかりました。また、データ転送速度を実測しておおよその完了時間が見通せましたので、既存のバックアップソフトを使ってスケジューリングすれば、ほとんど人手を介することなくバックアップを自動実行させることができます」
効率よくスケジュールを組めば、現状のシステムを拡張することなくバックアップ対象のシステムを増やせる見通しも立てられたという。
「基幹システムは、日次でのDisk to Diskバックアップとリモートコピーを組み合わせる。これに準じる大規模なシステムは週次テープバックアップでメディアを外部搬送。そして、比較的小規模なシステムには週次でのクラウドバックアップを適用する―こうした適材適所の使い分けを想定しています」(宮腰氏)
Amazon S3とNetapp SteelStoreによるクラウドバックアップが、リコーにおいてテープ、ディスクに続く“第3の選択肢”に加わったのである。
クラウドバックアップがテープレス化に向けた大きな一歩に
本プロジェクトにおいて、リコー固有のネットワークセキュリティ要求に応えたのはHPEのコンサルティングチームである。HPEでは、ユーザー企業固有の課題を解決しながら最適なバックアップ環境の実現を支援する「HPEクラウドバックアップ構築支援サービス」を提供している。本プロジェクトではNetapp SteelStoreの日本語の基本操作手順書も提供した。
「リコー様ではデータセンター内から直接クラウドに接続することが許されていませんでしたので、独自にテスト環境を構築して接続検証を行いました。結果としては、Netapp SteelStoreの機能を活用することで、データセンターネットワークに変更を加えることなくこれを実装することができました」(日本HPE テクノロジーコンサルティング事業統括 シニアコンサルタント 大矢俊夫氏)
運用が始まって間もないが、すでにクラウドならではの即時性に手応えを感じているという。
「ユーザーからの要求に対して、バックアップまでを含むサーバー環境をタイムリーに提供できる条件が整いました。オンプレミスで数カ月を要する環境を、仮想化共通基盤とクラウドバックアップなら数日のうちに用意できます」(西脇氏)
西脇氏は、バックアップだけでなくデータの長期保管/アーカイブの場所としてもAmazon S3を利用できないか検討を始めているという。
最後に宮腰氏が次のように語って締めくくった。
「メディアが破損してデータが読み出せなくならないか。数年後にデータを読み出したいという要求があったとき、その時点でテープドライブが対応しているだろうか―テープによるバックアップ運用には常に課題認識を持っていました。クラウドバックアップという選択肢が加わったことは、将来のテープレス化に向けた大きな一歩ではないかと考えています」
詳しい情報
HPE コンサルティングについてはこちら
www.hpe.com/jp/ja/services/consulting.html
ソリューション概略
導入サービス
導入アプライアンス
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