2015年10月22日、日本ヒューレット・パッカードは「HP Tech Power Club 2015 総会 秋」をトラストシティカンファレンス・丸の内を会場で開催した。次世代コンピューティングアーキテクチャー「The Machine」の開発状況が報告されたのをはじめ、ミッションクリティカル、スケールアウト、プライベートクラウドの分科会セッションでは各テーマが深く掘り下げられた。また、実機展示のコーナーでは最新技術や応用事例が紹介され、参加したテクノロジストたちの大きな関心を集めた。

爆発的なデータ増大に対応できない現在のデータモデル


日本ヒューレット・パッカードの執行役員 プリセールス統括本部長 香月千成子の開会挨拶に続いて、基調講演の壇上に立ったのが、HP中央研究所 システム研究部門 チーフアーキテクトのKirk Bresnikerである。HPのフェローであり「The Machine」プロジェクトをリードするBresnikerは、「本格化するThe Machine開発の最新状況」と題して講演した。
Kirk Bresnikerは冒頭、「今、ITは大きな分岐点に立っています。システムが処理しなければならない情報量があまりに増大しており、従来のデータモデルではもはやこの爆発的なデータ増大に追従できません」と切り出した。
現在のシステムの基本設計は30年以上前のものであり、数10億のモバイルデバイスが接続されるような今起こっている変化に適応することはもはや困難だ。企業が扱う情報量も急増しており、すべての情報を統合してリアルタイムに分析し意思決定を行うことも難しくなっている。また、電力消費の問題は解決されないまま残されており、安価なハードウェアの時代も終わりつつある。

「東京オリンピックが開催される2020年には、80億の人口、200億のデバイス、1,000億の社会インフラデバイス、1兆のアプリケーションがとてつもないデータを生み出し、現在のトランジスタ技術を圧倒してしまいます。40ZB(40億TB)とも予想されている未曽有の情報を、リアルタイムに処理していくには新しいイノベーションが不可欠なのです」(Bresniker)

「メモリドリブンコンピューティング」というイノベーション


BresnikerはHP中央研究所(HP Labs)の歩みについて触れ、続いて2014年に発表した「The Machine」の最新動向を紹介した。これまでのコンピューターは、CPU、メインメモリ(DRAM)、ストレージデバイス、ネットワークデバイスという基本構成を採るが、「The Machine」ではまずメモリとストレージが大きく変更されるという。
Bresnikerは、「The Machineのアーキテクチャーでは、不揮発性の『ユニバーサルメモリ』を中心に置き、システムオンチップがこの巨大なメモリプールに『フォトニクス技術』でアクセスします。私たちはこれを『メモリドリブンコンピューティング』と呼んでいます。単一のメモリプールに複数のCPU、DSP、SoC(Systems on Chip)などが超高速にアクセスし処理を実行できるようになります。1台のマシンにとどまらず、これをデータセンタースケールで実現することを目指しています」と語る。

「The Machine」の中核技術のひとつである「ユニバーサルメモリ」は、DRAM、SSD、HDDなどを1つにまとめてデータ階層を一掃する。これによりI/Oのボトルネックは解消され、システムパフォーマンスは劇的に高速化される。しかもセキュリティ面でもメリットをもたらす。従来の多段階に階層化されたシステム構成では、多くのコードとクエリが実行されるためここが攻撃対象となるが、The Machineではこの問題を解決できシリコンレベルからセキュリティ機能を実装可能だという。

16兆TEPSのグラフ解析性能を1/20の電力で実現


次にBresnikerは、「The Machine」がどれだけのパフォーマンスを発揮するのかシミュレーション結果を紹介した。The Machineは、大規模グラフ解析性能を競う「Graph 500」ベンチマーチにおいて16兆TEPSという驚くべきパフォーマンスを実現し、しかも消費電力を従来型システムの1/20に抑えることができるという。

「画像検索のパフォーマンスシュミレーションで、米国民3億2,000万人の中から1人を探し出すための処理時間を3つのケースで比較しました。その結果、ユニバーサルメモリ機であるThe Machineは、ディスクベースのクラスタ、インメモリベースのクラスタを圧倒する15ミリ秒という結果を出しました」とBresnikerは話す。

さらにBresnikerは、移動通信システムにおけるスマート基地局の例を示し、「The Machineなら、膨大な数の通信デバイスを効率的に管理し、安定的な通信サービス提供に寄与できる」と話した。膨大な通信記録の収集や管理、分析とその先の課金処理まで、「The Machine」の巨大なメモリプールが威力を発揮するという。

Bresnikerは、「私たちは、二酸化チタンの薄膜を用いたメモリスタ(memristor)が、ユニバーサルメモリの最も有力な候補と考えています。2016年の半ばには『The Machine』のラックスケールモデルをお目にかけることができるはずです。そして、様々なワークロードに最適化したThe Machineのモデルを用意していく考えです。2020年以降は、The Machineによるイノベーションが世界を席巻していくことでしょう」と自信を示した。

Bresnikerは、メグ・ホイットマンCEOが掲げた「This changes everything ―― これがすべてを変える」を引用して講演を締めくくった。

イノベーションチャレンジ表彰式


基調講演に続いて行われた「HP Tech Power Club 2015イノベーションチャレンジ表彰式」では、「ミッションクリティカル」「スケールアウト」「仮想化/クラウド」それぞれのテーマに沿った活動が評価され、3人のテクノロジストが表彰された。プリセールス統括本部 サーバー技術本部 本部長の神尾信郁が、イノベーションチャレンジの趣旨を説明。HPが主催する最大のイベント「HP Discover 2015」への招待を含め表彰者への特典も披露された。


《ミッションクリティカル》部門
受賞者 株式会社 大和総研ビジネス・イノベーション 大井彬史様
タイトル 「HP Integrity NonStop X でのfunwork 稼働検証報告」
概要 Intel Itanium 2プロセッサー搭載HP NonStop Iシリーズで稼働していたfunworkの一部機能を、Xeonプロセッサー搭載の新製品HP NonStop X上で稼働確認、性能検証を行った。その結果と、今後のNonStop Xへの可能性を共有したい。

《スケールアウト》部門
受賞者 株式会社 サイバーエージェント 平野 智洋様
タイトル 「大幅なコスト削減を実現するDISKレス物理サーバー」
概要 物理サーバーにおいて、従来より使用されてきた一般的なDAS構成(HDD+RAID)を再考し、iSCSIを利用したDISKレスシステムの優位性について検証した。数、量、速度、コストのバランスを取ることに留意しながら、革新的な手法で課題解決を実現。

《プライベートクラウド》部門
受賞者 日本マイクロソフト株式会社 荒井 太郎様
タイトル 「Superdome Xの限界を探れ!!SQL Serverが引き出す驚異の性能」
概要 最新のスケールアップサーバー Superdome X 上で SQL Server がどれだけの処理性能を実現できるのか、マイクロソフト社のエキスパートがベンチマークテストを実施。結果、これまでのハイエンド機(DL580 Gen8)の 2 倍以上の性能を確認。Hyper-Vでの仮想化観点での検証も実施

さあ、エンジニア魂に火をつけろ!


最後に、エンタープライズグループ事業統括 プリセールス統括本部 執行役員 統括本部長の香月千成子が、HP Tech Power Clubの今後の方針について説明した。2014年7月2日に発足したテクノロジストのためのコミュニティ「HP Tech Power Club」は、すでに2回の総会と6回の分科会を実施しており、回を重ねるごとに参加者も拡大しているという。

「最先端のテクノロジーとイノベーションでお客様に貢献していきたい、そうした強い思いを持つテクノロジストの皆様をHPは全面的にご支援していく考えです。ミッションクリティカル、スケールアウト、プライベートクラウドの分科会に加え、今後はソフトウェアデファインドストレージ、次世代ネットワークの分科会も実施していきます。次のイノベーションチャレンジの公募は2016年2月に始まります。我こそはと思うテクノロジストの方には、ぜひチャレンジしていただきたいと思います」(香月)


ラスベガスで行われた「HP Discover 2015」の模様。1,000を超えるセッションが行われ世界中から10,000名以上が参加した。