2016年2月16日、東京・秋葉原で「Hewlett Packard Enterprise Tech Power Club 2016」が開催された。基調講演のテーマは、「IoT(Internet of Things)」である。日本では、まだ手探り状態のこの新しい技術が、米国では既に多くの企業のビジネスを変革し大きな成果を上げているという。IoT活用のポイントとは何か。膨大な数のデバイスやセンサーからリアルタイムに送られてくるデータからいかに有益なインサイトを得るか。IoTビジネスの最前線で活躍するキーパーソンが語る、実践段階のIoTを紹介しよう。

加速するTech Power Club 2016


アイデアエコノミーの時代を拓く




香月千成子氏
日本ヒューレット・パッカード株式会社
執行役員
プリセールス統括本部長

基調講演に先立ち日本ヒューレット・パッカード 執行役員プリセールス統括本部長の香月千成子氏が登壇し、技術共有の場としての「Tech Power Club」の重要性を強調した。

「アイデアエコノミーの時代を勝ち抜くためには、ハイブリッド・インフラストラクチャへの変革、デジタル・エンタープライズの保護、データ指向経営の推進、ワークプレイスの生産性向上という4つの領域で、イノベーションを加速させなくてはなりません。そのために必要な技術情報をテクノロジストの皆様と共有していく。それがTech Power Clubの役割です」

「Tech Power Club」には、そのためのしくみが数多く用意されている。技術分野ごとの分科会、最新技術・デモの展示に加え、今年は米HPEで研究開発の最先端を担うテクノロジストが今後の製品開発を語る「テクノロジー・エクスチェンジ」も開催された。
「The Machine、HPE Moonshot SystemHPE Synergyといった革新的な技術に、このTech Power Clubで初めて出会ったという方も多いでしょう。今回は米国ヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)のIoT事業のキーマンが、この分野の最新イノベーションをご紹介します。新しい技術のワクワク感をぜひ共有してください」

《テクノロジー最前線》HPEが実現するIoTの世界


もう一つのビッグデータ=IoT




Dr. Tom Bradicich
Hewlett Packard Enterprise
Vice President and General Manager,
Servers & IoT Systems

基調講演に登壇したTom Bradicichは、「IoTは、データ指向モデルへのパラダイム転換を強力に推進する」と、従来型のビッグデータ活用を大幅に拡張するIoTの意義を強調した。

「企業ITからソーシャルメディアへ、ビッグデータのソースが広がっていくにつれて、得られるインサイトも拡大してきました。IoTはその範囲をさらに自然やデバイス、人体などあらゆる物理的な事象に拡大します。そこから得られるインサイトは、ビジネスやエンジニアリング、科学といった分野に新たな革新をもたらすでしょう」





IoTの対象データと得られるインサイト

IoTによる革新を実践するためにはまず対象データの特徴をよく把握しておかなければならないとTom Bradicichは指摘する。「IoTで取り扱うデータは従来型のビッグデータとは大きく異なる」からだ。

IoTの対象となるのは、光、音、温度、湿度、圧力、速度、加速度、振動、粒子、電流、磁気、電波、測位、時間、映像、体温、心拍数など。一見しただけではわかりにくいが、これらのデータにはある共通点があるという。

「一つはすべてアナログデータだということ。もう一つは従来型のビッグデータとは比較にならないほどの巨大なデータサイズです」

例えば、巨大粒子加速器に組み込まれたIoTセンサーは、1回の衝突実験で1秒あたり40TBものアナログデータを検知するという。素粒子解析という目的を達成するには、この巨大なデータを処理しなければならない。

「ビッグアナログデータをいかに高速に処理するか、その中からどのようにして価値あるインサイトを抽出するか。HPEは今まで培ってきたビッグデータ活用技術とソリューション構築のノウハウによってIoTのこれらの課題に応えています」



“ビッグアナログデータ”のデータサイズ

IoTアーキテクチャの4つのステージ


IoTのメリットを最大限に享受する上で重要な役割を担うのが、HPEが独自に組み上げた「IoTソリューション・アーキテクチャ」である。

「どのステージでどのような処理をすべきか、データフロー、ステージ間の連携はどうあるべきかといったシステム構築上のポイントを今までの実績に基づいて整理しています。これによりビッグアナログデータの収集から前処理、データ解析によるインサイト獲得までのプロセスを最適化できます」

IoTソリューション・アーキテクチャは、デバイスや機械設備などからビッグアナログデータを収集する「センサー/アクチュエータ」、そのデータをアナログデジタル変換する「インターネットゲートウェイ」、データ解析用の準備を行なう「エッジIT」、データの解析や管理・アーカイブを実行する「データセンター/クラウド」という4つのステージから構成されている。

この4つのステージに、多層防御やプロアクティブな防御を実現するセキュリティシステム、コンサルティングから移行、構築、運用管理までを支援するトータルサービス、さらにはパートナーとの連携によってソリューションの価値を拡大するためのエコシステムも組み込まれ、企業がニーズに合ったIoTシステムを構築する上での「IoT活用のテンプレート」として適用できる。





HPEのIoTソリューション・アーキテクチャ


「机上の理論ではなく、すでに多くのお客様のIoTシステムに適用され、大きな成果を上げています」として、Tom Bradicichはいくつかの先進事例を紹介した。

例えばドイツの鉄道会社では列車にセンサーを取り付け、走行中の線路の状態をトラッキングしている。線路の状況をリアルタイムに把握することで、電力消費の抑制、メンテナンスコストの削減を実現している。

アメリカ最大の電力会社では、発電用タービンのモニタリングにIoTを活用。振動などのパターン分析によって、タービンの故障を事前に予測できるようになった。

スイスの大学との共同開発によるスマートグリッド用の交流位相量計測器(PMU)にもIoTが組み込まれている。センサーでグリッドの異常値を発見し、電力系統を自動的に切り替えることで、コスト削減を実現している。


インサイト加速の鍵を握る「エッジIT」


次にTom Bradicichはビッグデータ処理における「3つのA」、すなわち獲得(Acquisition)、分析(Analysis)、アクション(Action)をいかに加速するかが、IoTにおける最大の課題だと語った。

「Time to Insightを最小化するために、私たちが注目しているのは、IoTの4つのステージの中の『エッジIT』のステージです。データ発生の瞬間により近い『エッジIT』でデータ分析を行うことで、インサイトの取得が加速できるのです」

その実践例として紹介されたのが、イギリスヴァージン・グループのレーシングチーム「DS Virgin Racing Formula E Team」における事例だ。ここでは、走行中のレーシングマシンの状況を把握し、メンテナンスエンジニア、ドライバーに適切な指示を出すためにIoTが使われている。注目すべきなのは、データセンターやクラウドでなく、レーシングチームが作業するピットに置かれたエッジコンピュータがデータ分析を行っている点である。





「DS Virgin Racing Formula E Team」におけるIoT活用例

「ピット内でエッジコンピュータとして使われているのはHPE Moonshot Systemです。スーツケースサイズの中に180ものサーバーを実装できる省スペース性、省電力性を備えながら非常に強力なコンピューティングパワーを提供するHPE Moonshot Systemは、データ発生の現場におけるインサイト取得、リアルタイムの意思決定というIoTの新たな可能性を実証しています」



HPE Edgelineが拓く、IoTの未来


そのIoTの新たな可能性をさらに推進するために、今回HPEが投入した新たな製品ラインが「HPE Edgeline Systems」である。

HPE Moonshot Systemのアーキテクチャを応用し、消費電力と設置面積を抑えながら優れたパフォーマンスを提供します。これにより、データセンターやクラウドの処理を待たずに、IoTのビッグアナログデータを現場で分析できるようになります」

現在、発表されている(*)「HPE Edgeline Systems」は2機種。エントリーレベルの「EL10」はコストパフォーマンスに優れ、低い電力レベルでも利用できる。「EL20」はより大きな処理量に対応し演算処理能力に優れている。両製品ともラックマウント型に加え、耐久性を高めた可搬型が用意され、データ取得から分析までをフィールドで行うことができる。エッジでの利用を前提に、ショックや振動に耐える堅牢性も備えている。




HPE Edgeline Systems EL10


HPE Edgeline Systems EL20


「今後、このEdgeline IoT Systemsのラインアップをさらに充実させ、エッジコンピューティングを強化することで、IoTのTime to Insightを加速していきたいと考えています。HPEが今まで培ってきたセンサー技術、arubaのネットワーク技術、ソフトウェアプラットフォーム技術など、様々なアセットを活用しながら、お客様企業とIoTの新たな可能性を拓いていきます」

Tom Bradicichは、次のように述べて基調講演を締めくくった。

「良い企業はトレンドを追いますが、素晴らしい企業はトレンドを創ります。HPEは、常にIoTの新しいトレンドを創り、実際のビジネスの価値としてご提供してまいります」



※2016年3月現在、「HPE Edgeline Systems」は国内販売開始の準備中です。