レンダリング時間を大幅に短縮し最先端の3次元CG研究を加速する

レンダリングの高速化を図るため、当初は画像演算に特化したGPUによるGPGPUのアプローチも検討しました。しかしこの方法では、利用しようとするGPU特有のプログラミング方法などを改めて学ばなくてはなりません。また、せっかく身に付けても、他のGPUに応用できないなどの限界があります。教育的な側面も考えると、より汎用的な手法の方がベター。そこで、標準的なプロセッサーをメニーコアで使用し、大規模に並列処理できるアプローチを取ることにしました。

馬場 雅志 氏
広島市立大学 大学院 情報科学研究科 知能工学専攻 講師

 

広島市立大学の情報科学部では、今では暮らしの至るところで目にする機会の増えた3次元コンピューター・グラフィックス(CG)の研究に、1994年の開学以来、長年取り組んできている。

しかし研究上、重要な役割を担うコンピューターは6〜8コアのワークステーションが中心であり、計算負荷の高い新たなレンダリング手法を研究・開発するという取り組みの足かせとなっていた。

また、CGの応用分野を広げる試みとして近年積極的に進めている医用画像の研究では、可能な限り大きなメモリーを利用したいというニーズも生まれていた。

こうした悩みを一気に解決できる新しい研究プラットフォームとして、HP ProLiant DL980 G7の採用が決まった。

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目的

  • 3次元CG研究やCG技術の応用研究に幅広く活用できる研究プラットフォームの整備

アプローチ

  • プログラムを単純に並列化するだけでも高い効果が得られるメニーコア環境が理想
  • 膨大な画像データを扱う研究も考慮し、最大メモリー搭載量を意識
  • 高性能なインテル® Xeon® プロセッサー E7ファミリーを8基(80コア)搭載し、メモリーも最大4TBまで拡張できるHP ProLiant DL980 G7を選択

ITの効果

  • レンダリング時間は従来の10分の1に

ビジネスの効果

  • レンダリングと評価という研究サイクルを効率的に回すことが可能になり、研究スピードがアップ
  • CGをベースにした新たな研究領域にチャレンジできる基盤を獲得
 

今や、日常の生活の中で目に触れる機会が増えた3次元CG

宇宙空間を縦横無尽に飛び回る飛行艇をとらえた映画のワンシーン、地面に散らばる木片や敵が潜んでいそうな建物を本物そっくりに描き出すバトルゲームの映像。3次元コンピューター・グラフィックス(CG)が作り出す、現実と見まごうばかりの精緻な映像は、今や当たり前のように映画やテレビ、ゲーム、広告などの中で使われるようになっている。

また、教育の現場で学生たちに理解を促したり、建設業界では建築物の完成イメージを提示したり、製造業で製品のデザインや設計に用いられたりと、3次元CGの利用領域はますます広がっている。

1994年に開学した広島市立大学の情報科学部では、開学当初からこの3次元CGの研究に長年取り組んできた。同大学は、広島という地の歴史的経緯を踏まえ、「科学と芸術を軸に世界平和と地域に貢献する国際的な大学」を目指すという建学の基本理念を掲げて設立され、国際学部、情報科学部、芸術学部の3学部から成る。

さらにこの上に大学院や付属機関として広島平和研究所も併設。公立の大学としては珍しい国際学部や芸術学部を擁し、情報科学部は中四国地域で唯一「情報科学」を学部名に掲げるなど、非常にユニークな存在の総合大学といえる。

情報科学部で3次元CG研究の中心となっているのが、「画像メディア工学研究室/コンピュータグラフィックス研究室」だ。二つの研究室が合同で活動している同研究室では、3次元CGの表現力向上に向けて、広範なテーマで活発な研究活動を展開している。その研究プラットフォームとして、高性能なインテル® Xeon® プロセッサー E7ファミリーを8基(80コア)搭載したHP ProLiant DL980 G7が本格的な稼働を開始しようとしている。


画像メディア工学研究室/コンピュータグラフィック研究室のみなさん

画像メディア工学研究室/コンピュータグラフィック研究室のみなさん


CG研究グループのみなさん

CG研究グループのみなさん


広島市立大学大学院
情報科学研究科
知能工学専攻
講師
馬場 雅志 氏

広島市立大学大学院
情報科学研究科
知能工学専攻 講師
馬場 雅志 氏


3次元CGの技術は絶え間なく進化を続ける

3次元CGとは、3次元で定義された形状モデルをベースに、コンピューターの演算によって立体感のある2次元画像を生成する技術だ。3次元CGで研究テーマとなる領域は、ベースとなる形状モデルを作り上げるモデリングと、作り上げた形状モデルや仮想的な光源、カメラなどを配置した上で仮想カメラに写るはずの画像をコンピューターで計算して生成するレンダリングの、大きく二つに分けることができる。

同研究室が新しい研究プラットフォームを導入するにあたり、中心的な役割を担った同大学大学院の講師で同研究室に所属する馬場雅志講師は、レンダリング領域を主要な研究テーマとしている。研究のポイントを次のように解説する。

「レンダリングで使う手法として最も基本であり、現在でも広く普及しているのがレイトレーシング法です。1979年に誕生したこの手法を基に、その後、様々な手法が開発され、3次元CGで表現できる世界を広げてきました。例えば、物体の動きのぶれや半影を表現できる分散レイトレーシング法、物体間での光の相互反射などを考慮した画像作りができるパストレーシング法、などが誕生しています。我々の研究の主眼は、これまでにないレンダリング手法を開発すること、具体的にはそのためのアルゴリズムやプログラム、効率的な演算方法などを研究・開発することにあります」。

馬場講師が近年力を入れているのは、実際のカメラレンズで撮影したものと同様な効果をCGで再現するというもの。例えば、望遠レンズなどを使ったときの焦点ボケ、チルトシフトレンズを使ったときのミニチュア風写真。こうした様々なレンズの効果をシミュレーションし、これまでにない画像を作り出そうとしている。


焦点ボケをシミュレーションしたCG作品

焦点ボケをシミュレーションしたCG作品


レンダリング時間の短縮を汎用的なアプローチから解決する

その際に問題となるのは、レンダリングにかかる時間の長さだ。最適なアルゴリズムやプログラム、あるいはパラメーターを探し出すために、これらの要素を変化させてレンダリングを行い、その結果を評価する、というサイクルを何度も繰り返す必要がある。試せる組み合わせパターンが多ければ多いほど、より現実に近い画像の再現が可能になるというわけだ。

従来、こうした作業は研究室にある6〜8コアのワークステーションを使って行っていた。しかも、単純なレイトレーシング法と比べて負荷のかかる演算処理となるため、1回のレンダリングにも時間がかかっていた。

「レンダリングの高速化を図るため、当初は画像演算に特化したGPUによるGPGPU(Generalpurpose computing on graphics processingunits)のアプローチも検討しました。

しかしこの方法では、利用しようとするGPU特有のプログラミング方法などを改めて学ばなくてはなりません。また、せっかく身に付けても、他のGPUに応用することができないなどの限界があります。教育的な側面も考えると、より汎用的な手法の方がベター。

そこで、標準的なプロセッサーをメニーコアで使用し、大規模に並列処理できるアプローチを取ることにしました。また、プログラムのベースとして使用を考えていた『POV-Ray』というオープンソースのレンダリングエンジンが、想定していたGPUに対応していなかった点も、こちらを選んだもう一つの大きな理由でした」(馬場講師)。


 

大量のメモリーが利用できることもコンピューターの選定で考慮

馬場講師の所属している「画像メディア工学研究室/コンピュータグラフィックス研究室」では、3次元CGそのものに関する研究に留まらず、CG技術を様々な分野で幅広く応用しようとする研究も並行して行われている。その一つが、医療のために撮影されたX線写真やCT(コンピューター断層撮影)画像、MRI(核磁気共鳴画像法)といった医用画像を活用するための研究である。こうした用途でも、今回導入する新しい研究プラットフォームの活用を考えていた。

「想定していた研究は、多数の断層画像データを3次元的に蓄積しておき、体内の臓器、例えば心臓の動いている様子などを、断層画像データを変形させることで再現する、といったものでした。この研究では、変換処理のために大きなサイズの行列式を扱う必要がある、変換の素材となる画像データをなるべく多くメモリー上に置いておきたい、といったニーズがありました。このため、コンピューターの選定にあたっては、できるだけ多くの物理メモリーを搭載できるという点も考慮しました」と、馬場講師は振り返る。

こうした条件のすべてに合致したのが、標準的なインテル® Xeon® プロセッサーを最大8基、80コア搭載可能で、最大4TBの巨大な共有メモリーも利用できるHP ProLiant DL980 G7だった。


研究プラットフォームの概要

研究プラットフォームの概要

HP ProLiant DL980 G7ならではのリニアなスケーラビリティを発揮

HP ProLiant DL980 G7が納入された2013年10月初旬以降、同研究室ではサンプルデータやサンプルコードを使って、性能検証などの作業を徐々にスタートさせている。並列処理のプログラム作成には、フリーウェアのフレームワークであるOpenMPを用いている。

「プログラムを開発していくうえで、元のソースコードに簡単なディレクティブを追加するだけで手軽に並列処理が可能になるOpenMPは、非常に便利な存在です。HP ProLiant DL980 G7はシングルコンピューター内に多数のコアを格納できるため、OpenMPによる単純な並列化でも、大きな効果が得られそうだと感じています。HP ProLiant DL980 G7を選んだことは大正解でした」と馬場講師。

公開されているパストレーシング法のサンプルコードや並列化に対応した最新のPOV-Rayでレンダリング時間を実測したところ、想像していた以上の結果が得られたと馬場講師は驚く。

「これまで使っていた8コアのXeon搭載ワークステーションと実行時間を比較したのですが、80コアのHP ProLiant DL980 G7の処理時間はサンプルコードを使ったケースでも、POV-Rayのケースでも、およそ10分の1に短縮できました。一般にはコア数を増やしても、増やした数に比例して必ず処理スピードが速くなることは稀です。期待していた以上のパワーを発揮してくれそうです」(馬場講師)。


CG研究には開拓できる領域がまだまだ残されている

今後、HP ProLiant DL980 G7の本格稼働が始まれば、3次元CGの研究は大きくスピードアップが図れるだろう。さらに、CGの新しい領域にも積極的な取り組みが可能になると馬場講師は感じている。

「実レンズのシミュレーションと関連の深いカメラの分野では今、コンピュテーショナル・フォトグラフィーという新しい技術が提唱され始めています。これは、シャッターや絞り、撮像素子といったカメラの機構をコンピューターでコントロールし、記録した画像データを後から補正したり、単純な画像以外の様々な情報を取り出したりできるようにしようというものです。まだ研究が始まったばかりの領域ですが、これまでのカメラや写真の概念を大きく変える可能性を秘めています。この研究では、遺伝的アルゴリズムを活用するといったことも考えており、膨大な数の繰り返し処理を並列化することで、研究の大幅な効率化が可能になるでしょう」。

さらに、馬場講師は続ける。「CGの分野ではインバース・レンダリングというテーマも魅力にあふれています。まずモデルを作成してからこれに基づいた画像を生成するという一般的なCG生成の流れを逆転させ、画像からモデルを推定するという研究です。これについては、自動車のメタリック塗装を例に、CGからモデルを検討するという取り組みを徐々に進めています。CGの研究はすでにやり尽くされた、といわれることもありますが、まだまだチャレンジできることはたくさんあるはず。HP ProLiant DL980 G7には、そうした取り組みを加速させる強力な研究プラットフォームになってくれることを期待しています」。


 

会社概要

広島市立大学大学院情報科学研究科様

所在地: 〒731-3194 広島市安佐南区大塚東3丁目4番1号

URL:http://www.hiroshima-cu.ac.jp/ 


本件でご紹介のHP製品・サービス

導入ハードウェア

  • HP ProLiant DL980 G7

導入ソフトウェア

  • インテル® C++ Studio XE 2013

本ページの導入事例は、PDFで閲覧頂けます。  PDF (1.69MB)

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