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人の命にかかわる医療用医薬品
提供し続ける責務を全うするためのIT戦略とは?

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社

導入事例

日本ベーリンガー
インゲルハイム株式会社
人の命にかかわる医療用医薬品、提供し続ける責務を全うするためのIT戦略とは?
既存システムの再整備でIT運用コスト削減と情報共有の基盤を構築安定的な製品供給はディザスタ・リカバリで
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日本ベーリンガーインゲルハイムは、医療用医薬品業界で全世界のトップ20に入るベーリンガーインゲルハイムグループの日本法人だ。同社では2004年から2005年にかけて、サーバのコンソリデーション(集約)とディザスタ・リカバリ(DR)環境の構築を行った。特にDRは、事業継続を確保するための重要な取り組みだ。この一連のプロジェクトを進めるにあたり、同社はどんな企業戦略の下にどのようなIT戦略を立て、さらに企業戦略とIT戦略との関連付けはどのように行ったのか。執行役員で情報システム本部長の辻敏夫氏に話を聞いた。
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Boehringer Ingelheim

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 執行役員 情報システム本部長 辻敏夫 氏 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
執行役員 情報システム本部長 辻敏夫氏


大学にて管理工学・情報処理を学び1978年に卒業後、日本石油の大手販社のコンピュータ部門で4年間勤務。そこで、特にメインフレーム系のシステム開発をSEとして経験。次にアメリカ系外資グローバル消費財製造メーカーに移り、そこのIT部門に勤務。そこでの23年間のうちにソフトウェア、ハードウェアと組織のリージョン化、グローバル化、アウトソーシング、インソーシング、そして会社とIT部門の広域なガバナンスを経験。2003年9月に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の情報システム部門本部長に就任し、現在に至る。

医療用医薬品を提供する企業として安定的な継続供給が最重要課題

─日本ベーリンガーインゲルハイムは企業戦略と密接に関連したIT戦略をベースに様々なIT投資をされています。まず、医療用医薬品業界における御社のポジショニングについてお聞かせください。

辻氏(以下、敬称略):始めにベーリンガーインゲルハイムは、1885年にドイツで誕生した医療用医薬品の製薬会社で、世界47カ国に143拠点を持ち、ドイツ国内では最大、グローバルでも常にトップ20に入っています。
日本ベーリンガーインゲルハイムは1961年に設立された日本法人で、日本国内で医療用医薬品を中心に活動をしており、主に循環器、呼吸器、中枢神経などの領域に強みを持っています。

─医薬品業界では2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品が合併して、売上高1兆円規模のアステラス製薬が誕生しました。業界再編も大きく進んでいるように感じられます。この業界で独立した企業として存続し続けることは、かなり厳しい状況なのでしょうか。

辻:ご指摘のとおり、この業界にはさまざまなプレッシャーがあります。他社との競争に加え、2006年4月の薬価引き下げや、特許期限が切れて各社が安価に販売できる「ジェネリック薬」の台頭など、我々を取り巻く環境は厳しさを増しています。

─そうした厳しい環境下で御社が目指すのは、やはり世界シェアを上げていくという方向性でしょうか。

辻:我々が企業活動を行う上で一番重要なことは、我々が“人間の生命にかかわる製品”を供給しているということです。言い換えるなら、“我々の開発した製品を、いかに安定的に、ニーズのある患者さんに届けることができるか”が最重要課題なのです。短絡的にシェアを上げたいというスタンスではないのです。
そうした意味では非常にユニークな企業だと思います。我々が目指すのは企業活動を通じた社会貢献であり、そのために安定継続を維持しながら成長していくということであって、トップ20の中では唯一、非上場企業です。キャッシュフローがうまく回り、企業価値が安定的に増加している限り、今の経営形態は続いていくと考えています。

─とてもよく分かりました。そうした理念の下、御社は具体的にどのような企業戦略を取られているのでしょうか。

辻:企業存続の源泉は、何といっても「製品」そのものです。そのため、新薬の研究開発は欠かせません。我々はここ数年来、医療用医薬品の売上の約5分の1を研究開発費に還元し続けています。循環器や呼吸器など、我々の得意分野を「選択」して経営資源を「集中」することで、経営リスクを最小限にしようとしています。
最近では、成長著しいバイオ医薬品分野にもシフトし始めており、2、3年前にはドイツ南部のビベラッハに、バイオ医薬品の大規模な生産プラントを立ち上げました。現在オーストリアにも新工場を建設中です。
また安定成長のためには販売力の強化も重要な課題ですが、我々の業界で特徴的なのは競合他社との協業で、これを「コ・プロモーション」と呼んでいます。お互いの強み、弱みを補完しあうもので、我々の製品を競合他社にも売ってもらうし、その逆もある。つまり“競合”しながら“協合”しているのです。
この他にも、全世界のグループ企業との連携によるスケールメリットや効率化なども進めています。


経営トップ直属の組織体制で企業戦略とIT戦略の融合を図る

─そうした企業戦略を具体化していくためにITの活用は欠かせない要素だと思いますが、御社では企業戦略とIT戦略とをどのように関連付けられているのでしょうか。

辻:他社との差別化を図り、企業価値を高めるためには、ITを戦略的に活用していく必要があります。私の担当する情報システム本部は、カントリーマネージャーで代表取締役会長のトーマス・ハイルの直属になっており、経営層と密接につながっています。私のレポートラインも彼です。
また私は取締役会議やいろいろな経営会議にも参加させてもらっており、会長傘下の取締役ともフラットに話ができる環境に置かれています。彼らと定期的に会議も行っており、そうした場を通じて各部門の情報ニーズを吸い上げ、全社の戦略に合致するかを検討して、部門単位の「マスタープラン」を作っています。
具体的には、この1年でどんなことをしたいのかをヒアリングし、全社戦略にあったものはマスタープランの実現を進め、通常は半年に1回、部門によっては3カ月に1回、必ずレビューを行って、ニーズは変わっていないか、新しいニーズは何か、などを確認しながら進めています。
やはり社内において情報システム部門は各部門と、「サプライヤとカスタマの関係」をしっかりと築かなければいけないと思います。全社的に導入しているバランス・スコアカードをも有効活用し我々はそうした環境を増強してきており、それゆえ各部門が本当に何を望んでいるのかを理解しています。


最低限のミッション、売上増加のための活動支援が最重要課題

─経営とITとを結ぶ全社的な体制が整っているということですね。それでは次に、実際のIT戦略についてお聞かせください。

辻:まず情報システム本部の最低限のミッションとして、運用コストの最適化が挙げられます。
通常、ITコストの約50%は既存リソースの運営に使われています。例えばメールやアプリケーションの安定稼働、ソフトウェアのバージョン管理、ヘルプデスク運営、さらにはエンドユーザーの教育などです。また高精度の画像データの取り扱いが急増し、メールサーバやファイルサーバのキャパシティ増強も定期的に行わねばなりません。放っておけば、運営コストはどんどん増えていきます。
企業戦略を見据えながら、常にシステムをモニタリングして、最適な仕組みやキャパシティを提供するということが、情報システム部門には求められるのです。

─つまり運営コストの削減は、企業にとって必要最小限の取り組み課題だと…。

辻:そのとおりです。コストだけを削減して、売上が増えたという会社は聞いたことがありません。我々にとって一番重要なIT戦略とは、企業としての安定的な成長を維持するために他のサポート部門と一緒になって、「マーケット戦略や販売戦略などの活動を最適なコストでサポートする」ということなのです。そのためには、競合優位性を確保できるようなIT活用を推進していくことが求められます。
日本の情報システム本部は現在、社員数としては27人ですが、グローバルではIT部門全体で約1400人にもなります。各国で同じ製品を売っているのでITニーズに大差はありません。つまり各国で個別にシステムを作る必要は全くないのです。
我々は年に3、4回、主要11カ国のIT部門が集まって会議をしています。そこでは、お互いにどうすれば一緒に仕事ができるか、我々の戦略的パートナーはどこにするか、などを議論しており、例えばグローバル契約を結んで新型のハードウェアでも廉価で導入する、ということを行なえば、世界規模でのスケールメリットを出すことができます。
これは運営コスト最適化の面からも有意義ですが、競合優位性を確保する革新的な技術の導入という点でも非常に効果的です。
米国や欧州ではIT活用が進んでおり、そうした拠点のグループ企業と協力することによって、日本にはない有効なITを日本の競合他社よりも早く導入することができるのです。


サーバのコンソリデーションは企業戦略を支援するIT活用の第1ステップ

─御社は2004年から、各種サーバのコンソリデーション(集約)とディザスタ・リカバリ(以下DR)への取り組みを進められています。こうした施策は企業戦略上、どのような意味を持つのでしょうか。

辻:まずサーバのコンソリデーションについて、一般的にいわれる効果として運営コストの削減が挙げられると思いますが、我々にとっては必ずしもそうではありません。
我々が一番困っていたことは、エンドユーザーコンピューティングが進みすぎて、情報の共有化がうまくできていなかったことなのです。そこから生まれる無駄は運営コストをはるかに超えるものです。
部門独自のファイルサーバが増えて、他部門の人間がうまく利用できるシステム環境になっていなかった。これではマーケット戦略や販売戦略を支援するためのIT活用といってもままなりません。そこで、まず増えたファイルサーバを集約することを考えたのです。

─なるほど。企業戦略を支援するIT活用のためには、まず情報の共有化を実現する環境を整備する必要があったということですね。

辻:そのとおりです。ファイルサーバの集約にあたっては、まず既存サーバの中身を洗い出して整理する必要があります。各部門にヒアリングをして、各々、誰が何のために使っているのかを全部調べました。そうすると、これと同じデータは別の部門でも作っているなど、非効率な部分や改善できる箇所が見えてくるのです。
今後は、洗い出したデータを全社レベルで共用する仕組みをどうやって作るかを考える段階で、今まさに各国と一緒になってその方法を模索しているところです。
また当社では1年前まで、1人2つのメールアカウントを持っていました。1つは日本語対応で国内用、もう1つは英語対応で海外用です。それなりに理由はあったのですが、メール利用の際にはメールソフト上でのアカウントの切り替えが必要で、しかもどちらにどんなメールが来ているかは見てみなければ分からない。
こうした状態だったメール利用についても、日本語のメールサーバを英語のメールサーバに統合することで一本化を図りました。実際のプロジェクトとしては、2004年にファイルサーバとメールサーバの集約を行い、同時にキャパシティの増加を図りました。次のステップとして2005年にはアプリケーションサーバの集約を行いました。


DRへの取り組みは製品の安定供給を維持するための社会的義務

─DRへの取り組みが持つ意味については、いかがでしょうか。

辻:企業活動を継続していく上で、情報は今や企業の生命線です。会社としての機能を維持するためには、コミュニケーションを行うためのメールや電話といった通信インフラだけでなく、企業データを扱う情報システムも絶対に止めてはいけません。
加えて日本は、世界でも類を見ない地震大国です。始めにもお話したように、我々は人間の命にかかわる製品を作っているので、例え地震に見舞われたとしても、我々の薬を頼ってくださっている患者さんには、製品を安定供給する責任があります。それができなければ、その患者さんは命の危険にさらされることにもなるのです。
だから我々の基幹システムは、絶対に止めてはならない。それは社会的な義務だといってもいいでしょう。そうした意味において、DRの仕組みはしっかりと作らなければならないと考えています。

─具体的なDRの仕組みとしては、どのような形態をとられているのでしょうか。

辻:主要国と一緒に決めた「SOP(Standard Operation Procedure)」という標準運営手順をスタートラインにしています。これに日本固有のニーズを加味し情報システム本部運用指針を作成しています。
この中で、最も重要な箇所は二重化する、あるいはこの部分はバックアップ機能を作っておくことで24時間以内に復活できる、というガイドラインを作っておりDRはこれにのっとって取り組んでいます。
今回のプロジェクトでも、優先順位をつけて主要な箇所は二重化を図り、費用対効果からそれが難しい箇所ではバックアップ機能を持たせています。
またDRという観点から見れば、何年も同じ機械を使っていて修理の部品がもうない、といったこともリスクに含まれます。これに対処するためにはライフサイクルマネジメントの視点からシステムを捉え、例えばこの箇所についてはこれだけの期間で見直す必要がある、ということも明らかにしておく必要があります。SOPの中では、こうしたことも明確化されています。
一般的に、災害が発生してから対策を取る場合、災害前の対策に比べて、10倍ぐらいのコストと手間がかかると言われています。我々の精神衛生の観点からも全く良くありません。言うまでもなく早い段階で対処すればするほど、問題は小さくなるのです。


ITILの導入で社内の情報リテラシーの向上と情報システム本部の人材活用が実現

─IT戦略を具体的なシステムに落としていく上で、御社が留意された点、あるいは工夫された点はありますでしょうか。

辻:プロジェクトを進める上で一番重要なのは、やはり「人的資源」だと考えています。
私は主要国のIT会議に出席していますが、私1人で各論まで詰めることはできません。グローバルレベルの案件なら、やはり現場で各国の担当者と話をしてプロジェクトを進めてくれる人間が必要です。
当社は人材教育にも惜しまず投資してきており、その一環として英語の教育を含むグローバルで活躍できるスキルの開発に力を入れています。相当数のIT社員が、各国のIT担当者と英語を介して直接話をしながら仕事を進めることができるようになってきました。
また当社は、システム運用のガイドラインである「ITIL(IT Infrastructure Library)」をかなり早くから採用しており、約2年半前からはこうしたシステム運用の面からも人材開発を進めてきました。今では、ITILのレッドバッジの審査委員をさせていただいている社員もいます。

─そのITILへの取り組みについてもう少し詳しく伺いたいのですが、専門家も育成して取り組んだ結果、何か具体的な効果は出てきたのでしょうか。

辻:我々はITILのツールを使うことで、月間約700件、年間にして約8000件の質問やクレームを社内から収集しています。
ここから、皆こういうことに困っているとか、こんな質問が多い、ということが分析されます。そして大多数の社員が自己流でワークステーションを使っていることが色々な問題を生んでいることがまず見つかり、我々も教えねばならないポイントが分かってきました。そこで社内で要求されている機能に集中してトレーニングを行いました。皆が知っている機能はどんどん飛ばして、困っていたり、あまり知られていない、でも絶対に使える機能をレクチャーしたのです。故に社内の反応も非常にいい。
そこで何が起きたかというと、皆のコンピュータを扱う能力が少し上がった。そうなると月間700件あった問い合わせ件数が減り、基本的な質問も来なくなる。ヘルプデスクへの依存度が減り皆の仕事も速くなります。そして我々情報システム本部は、電話対応などに当てていた人的パワーを別の創造的な仕事に振り分けることができるようになったのです。ITILの効果はそういうところに反映されてきています。
人材教育やITILへの取り組みには、確かに一時的にお金はかかりますが、正しく使えば効果は確実に出てきます。実際の効果が現れるまでに少なくとも3年というスパンで捉えて、じっくりと取り組むことが必要だと思います。
システムの運用に関しては、各ベンダーやシステムインテグレータからアウトソーシングサービスが提供されていますが、情報システム部門として忘れてならないことは、決して丸投げをしてはいけないということです。
システム運用を丸投げしてしまうと、肝心の経営戦略とITとの結びつきが分からなくなってしまいます。そのうちにエンドユーザーも丸投げした会社と話を始めてしまう。日々のシステム運営の中にも常に多くの貢献エリアが残されており、情報システム部門はこれに継続して注視しなければなりません。
さらに万一、丸投げした会社の機能が停止してしまえば、自社も共倒れになってしまいます。これは、企業全体の存続にもかかわる問題です。
世の中にある魅力的なサービスを利用しない手はありません。だから情報システム部門が直接行わなくてすむ部分は、コスト的に見合えばできるだけ外に出して効率化を図る。ただしあくまで利用するだけで、コントロール機能は情報システム部門に残しておくことが非常に重要だと思います。

─どうもありがとうございました。

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